有給休暇の日数や法的扱いについて

福岡県糟屋郡宇美町の「かなた社会保険労務士事務所」代表の田中幸代です。

今回は有給休暇についての基本的な知識、法的な扱い、義務化されている部分、就業規則に載せないといけない事項であること、などをご説明していきたいと思います。

有給休暇とは?

有給休暇(年次有給休暇)とは、一定期間勤務した労働者に付与される、賃金の支払いがある休暇のことです。
付与される日数は、入社から半年で10日、1年後に11日というように、法律で決められています。
また、正社員だけではなくパートタイムやアルバイトといった短時間労働者に対しても、週の所定労働時間に応じて有給休暇が付与されます。
 
企業には、有給休暇が1年間に10日以上付与される労働者に対して、年に5日以上確実に取得させる義務があります。
有給休暇は、入社日・継続勤続年数・所定労働時間に応じて付与日や付与日数が決定されるため、従業員ごとの個別管理が求められます。
労務管理の煩雑さを軽減し、確実な取得を促進するための制度として、一斉付与(斉一的取扱い)や計画的付与の制度があります。

有給休暇の付与日数

有給休暇(年次有給休暇)とは、一定期間勤務した労働者に付与される賃金の支払いがある休暇のことです。
継続勤続年数が6ヵ月以上から対象となり、付与される最低限の日数は、所定労働日数と勤続期間によって法律で決められています。

労働基準法 第三十九条
(2) 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。
【引用】労働基準法|e-Gov法令検索

正社員の場合

正社員は10日から1年毎に増える

フルタイムで働く正社員の場合、入社してから6ヵ月継続勤続すると10日の有給休暇が付与されます。
以後は1年ごとに、付与される日数が増えていき、最大の付与日数は1年間で20日です。
なお、パートやアルバイトであっても、週の所定労働時間が30時間以上または週5日以上勤務する場合には、正社員同様の日数が付与されます。

通常の労働者の年次有給休暇付与日数|厚生労働省

【引用】年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省

アルバイト・パートの場合

所定労働日数により異なる

アルバイトやパートといった労働時間が短い従業員も、有給休暇の対象です。
付与される継続勤続年数のタイミングは、6ヵ月、1年半、2年半で正社員と同様ですが、付与される日数は、所定労働日数によって異なります。
たとえば、週の所定労働日数が4日のパートの場合、継続勤続年数が6ヵ月で7日の有給休暇が付与されます。

【対象となるアルバイト・パートタイム】
1週間の所定労働時間が30時間未満で、かつ、週の所定労働日数が4日以下あるいは年間所定労働日数が216日以下の労働者

アルバイト・パートの年次有給休暇付与日数|厚生労働省

有給休暇の取り方

有給休暇の運用について、いつ、どんなふうに従業員が有給休暇をとるのか、法的なルールと、実際の運用の二つの観点から解説します。

法的なルール

従業員は、いつ有給休暇を取得するか自分で決める権利がある

従業員は自分自身で有給休暇をいつ取得するかを決めることができます。
有給休暇は、原則として企業から「いつ取得してください」と時季を指定することはできません。

ただし、繁忙期など、従業員が有給休暇を取得することで事業の正常な運営に妨げになる場合は、企業から取得日の変更を指示する「時季変更権」が認められています。

有給取得の理由を聞いてはいけない

有給休暇を取得する際、取得理由について従業員が答える義務はありません。
そのため、有給休暇を申請する際、取得理由の記載を義務化することはできません。
ただし、職場でのコミュニケーションとして、有給休暇の取得理由を聞くこと自体は、違法ではありません。

有給休暇は、就業規則の絶対的必要記載事項である

有給休暇に関連する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項に該当します。
有給休暇の付与条件や付与日数、企業の時季変更権などについては、必ず記載しなければいけません。

【就業規則に記載する有給休暇の内容】

  • 付与日数について
  • 時季指定について
  • 企業の時季変更権について
  • 有給休暇日数の翌年度の繰り越しについて
  • 企業の時季指定義務について
  • その他企業独自のルールなど

有給休暇の取得義務とは

2019年4月に行われた法改正以降、企業は従業員に対して「年5日の年次有給休暇の確実な取得」をさせなければいけません。
これを、有給休暇の「年5日の時季指定義務」といいます。
年5日の有給休暇の確実な取得の対象となるのは、有給休暇が10日以上付与される従業員です。
企業は、従業員ごとに、有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して有給休暇を取得させなければいけません。

企業に課された義務である

有給休暇の年5日の確実な取得は、企業に課された義務です。
従業員が有給休暇を年に5日とらなければ罰せられるのではなく、対象従業員に年に5日以上の有給休暇を取得させる運用を、企業がしなければならないという意味です。

企業が時季指定をして有給休暇を取得させるという法律のルールの背景には、有給休暇取得率の低迷と働き方改革の流れがあります。
有給休暇は、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇です。
与えられた有給休暇が消化されることは、従業員満足度を向上させ、働きやすい職場づくりにつながります。

法改正が行われる前の10年間の有給休暇消化率をみると、40%台で推移しています。
有給休暇の半分以上が未消化であるという状況から、2023年のデータでは取得率が62.1%と上昇しています。
【参考】令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省年5日の年次有給休暇の確実な取得|厚生労働省

運用方法(1)従業員に任せる

年5日の有給休暇の確実な取得を実現するための方法の一つは、従業員に取得義務について説明した上で、自由に取得させる方法があります。
ここで5日以上取得されている状況が実現できれば、企業は時季指定を行う必要はありません。
なお、有給休暇を年5日以上取得している従業員に対して、企業が時季指定を行うことはできません。

職場で年次有給休暇取得計画表を作成し、チームや部署内の有給休暇取得状況を共有する方法も、有給休暇の取得を促進する手段として有効です。

運用方法(2)企業側が従業員に対し、個別に時季指定する

従業員の個別意思に任せても、年5日以上有給休暇を取得していない、または過去の実績から有給休暇取得率が低い従業員に対しては、企業が個別に時季指定をする方法があります。

従業員によっては、取得義務のルールについて認識していなかったり、そもそも有給休暇の日数がどれぐらいあるのか把握していなかったりするケースもあります。
時季指定を行う際は、できる限り従業員の希望に沿った取得時季になるよう、意見を聴き、尊重しながら決定します。
また、従業員が有給休暇を申請したタイミングで「あと〇日取得しなければならないので、〇日と〇日に休んでください」と企業側から時季を指定して取得させる必要があります。

運用方法(3)計画年休を導入する

計画的付与制度とは、企業が前もって有給休暇を計画的に取得させる方法をいいます。
企業は効率的に有給休暇の管理ができ、従業員は気兼ねなく有給休暇がとれるというメリットがあります。
計画年休の対象にできるのは、付与日数から5日を除いた残りの日数です。

計画年休の方法は、以下の3パターンがあります。

◎計画年休の3パターン

  1. 企業や事業場全体の休業による一斉付与方式
    全従業員に対して同一の日に有給休暇を付与する方式です。
    製造業など、創業をストップさせてすべての従業員を休ませることができる事業場などで活用されています。
  2. 班・グループ別の交替制付与方式
    チーム別といった小さな単位で交代に付与する方式です。
    飲食や流通、サービス業など定休日を増やすことが難しい業種で活用されています。
  3. 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
    個別に計画的に付与する方式です。
    夏季休暇、年末年始、ゴールデンウィークなどに合わせて大型連休としたり、誕生日など個人的な記念日に優先して有給休暇を取得するケースがあります。

計画的付与は、さまざまなケースの活用例があります。
たとえば、夏季休暇や年末年始に合わせて計画年休を導入したり、大型連休の飛び石に計画年休を導入したりすることで、従業員が連続休暇を取得できます。
また、「アニバーサリー休暇」などの休暇制度を設けることも、有給休暇の取得促進につながります。
ただし、1. 企業が計画的に一斉付与する方式では、夏季休暇など会社がもともと休みと決めていた日を、有給休暇として扱うことはできません。計画年休を導入するには、就業規則への規定と労使協定の締結が必要です。

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TanakaSachiyo
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